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開発に2,000万円かけたが「資金難と大バグ」のコンボで会社が終了した元社長が語るリアル

柿沼太一 柿沼太一

「24歳でスマホゲーム起業。開発に2,000万円かけたが「資金難と大バグ」のコンボで会社終了。アプリ「きのこれ」元社長が語る会社倒産後の世界。」という記事を読みました。
めちゃめちゃリアルで、とても面白いです。
なかなかこういう裏話を率直に語る方はいないので、とても興味深く読みました。
今回は、この記事から読み取れる教訓といて
・ 外注したプログラムにバグが発生した場合に責任追及はどこまでできるのか
・ 会社はどういうときに潰れるのか
について書きたいと思います。

(http://appmarketinglabo.net/kinokore/)より

(http://appmarketinglabo.net/kinokore/)より

事の流れを無理矢理まとめると

・ 2014年4月にCmixという会社を立ち上げ、「クラッシュ・オブ・クラン」をベースにした「きのこれ」というゲームを企画。
・ 開発にはプログラミング外注費含め2000万円程度かかったが、リリース直後から順調な滑り出しを見せた。
・ しかし、リリース後にバグが頻発し、何とかしなくてはと思っているうちに、プログラミング外注費の支払いが出来なくなり、6月20日に資金が尽きた。
・ 資金調達のあてはあったが結局うまくいかず、6月30日にサービス停止(会社倒産)
・ 「きのこれ」は売却にかけられ「ポッピンゲームズジャパン株式会社」が購入

というものです。

破綻した会社が保有していたゲームシステムを競り売りの形で売却した、というのも事業譲渡の一パターンとしてとても興味深いのですが、私がとても興味を引かれたのは
以下の部分です。
記事内の元社長(栗原氏)とインタビュアーのやりとりを抜粋してみます。

栗原:リリース後に、とにかくバグ(不具合)に悩まされました。もちろんデバッグはしていましたが、経験が浅かったため、チェック漏れのバグがたくさん出てしまったんです。
中でもひどかったのが「課金チケットが無限に配布される」というバグです。イベントで配布する予定だった「課金チケット」が、無限に配信されてしまって。
チケットが4,000通とか、あまりにも大量に配布されすぎて、ユーザーがログインしようとするだけで、アプリが落ちてしまうことさえありました。
その後も、ずっとバグが続いて。ユーザーからもクレームがたくさん来て。「はやく直さなきゃ、はやく直さなきゃ」と急いでいるうちに、資金が底を尽きてしまいました。

インタビュアー:え..?

栗原:いくつか「資金調達の宛て」はあったのですが、一気に全部ダメになってしまって。大きい金額を投資してもらえるはずの話も、いきなり6月末に「やっぱりなしで」となってしまった。
そこで、いきなり追い詰められました。やばい、やばいとなって。とくにプログラミングを外注していたので、その支払いができなくなって。資金繰りで、手詰まりになってしまった。
あと「資金繰りの問題」に加えて、瀕死のところにやってきたのが、先ほどの「チケット無限バグ」でした。結局これが「最後のとどめ」になり、サービスを終了することを決めました。

つまり

・ リリース後に頻発したバグが破綻の原因
・ リリース後わずか3ヶ月でプログラミング外注費の支払いが出来なくなり資金ショート

ということです。
記事に掲載されていた図はこちら。

http://appmarketinglabo.net/kinokore/内の図より

http://appmarketinglabo.net/kinokore/内の図より

これを見て、おそらく皆思うことは
「プログラムを外注して、バグが頻発したんだったら外注先にクレームつけて、とにかく死にものぐるいで修正させればよかったんじゃ」
「なのに、なんでよりによって外注先への支払いが出来なくなり資金ショートなんていうことになるの?」
ということなのではないでしょうか。


■ 外注したプログラムにバグが発生した場合に責任追及はどこまでできるのか

まず、プログラムを外注した場合にバグが発生する、というのは大なり小なりあると思います。
問題は、その場合に外注先にどのような責任追及が出来るか、という点です。
今回のケースも、バグが発生した時点で外注先に責任追及が出来ていたのであれば、システムの修正はなんとか出来ていたかもしれませんし、少なくとも当該外注先に対する支払はストップできたでしょうから、資金繰りに窮するということもなかったでしょう。
外注業者にプログラムの制作を委託する場合の契約のパターンはいくつかありますが、請負契約とするパターンもかなりあります(本件がどのような契約のパターンだったかはわかりません)。
その場合、バグについて責任追及(「瑕疵担保責任」といいます。具体的には欠陥の改善要求や損害賠償など)が出来るかどうかは、そのバグが、プログラムの「瑕疵」に該当するかどうかによって決まってきます。

キャプチャ38

発注者(ユーザー)からすると、バグは当然「瑕疵」だろうと思うかもしれませんが、受注者(ベンダ)がいかに情報システムの専門家であったとしても、一定程度のバグが生じることは避けることが出来ません。
したがって、裁判例においても「バグがあれば即責任追及できる」とはされていません。

裁判例では、責任追及できるバグ(つまり「瑕疵」に該当するバグ)は以下のパターンでとされています(東京地裁平成9年2月18日判決)。
■ バグが、システムの機能に軽微とは言えない支障を生じさせ、遅滞なく補修することができない場合
■ バグの数が著しく多く、しかも順次発現してシステムの稼働に支障が生じる場合

今回のケースの場合、詳細はよくわかりませんが、インタビューによると
・ リリース後からバグが頻発。
・ 中でもひどかったのが「課金チケットが無限に配布される」というバグ。チケットがあまりにも大量に配布されすぎて、ユーザーがログインしようとするだけで、アプリが落ちてしまうことさえあった。
・ その後もずっとバグが続いた。
ということのようです。
これが事実だとすると、上記の「瑕疵」に該当するバグの2つめのパターン、つまり「■ バグの数が著しく多く、しかも順次発現してシステムの稼働に支障が生じる場合」に該当する可能性が高いのではないかと思われます。
とすると、同社としては外注先に対して、瑕疵担保責任を主張し無償補修や損害賠償を要求してもおかしくなかった、ということになります。


■ 会社はどういうときに潰れるのか

今回のケースがとても勉強になる(と言っては失礼ですが)のは、会社がどういうときに潰れるのかを示す具体的なケースだからです。
栗原さんはインタビューの中でこう語っています。

もう、どうしたらいいのか、わかりませんでした。周りに相談できる人もいませんでした。書籍やネットでも必死に探しましたが、答えは見つかりませんでした。
最終的には、どうしようもなくなり「弁護士を頼る」という決断をしました。それはつまり「会社を清算する(倒産)」ということです。
最後まで「本当にこれでいいのか」と悩みました。もちろん「ここで終わりたくない」とも思いました。でも、他に方法がありませんでした。

当時のリアルな状況が浮かんでくるようで、読んでいると胸が少し苦しくなります。
「相談できる人がいなかった」
「瑕疵担保責任を理由に外注先の支払い請求を突っぱねることができなかった」
「そもそも事業計画が甘く資金繰りに余裕がなさ過ぎた」
などなど、会社清算という選択肢を選択した理由はいくつもあると思います。
また、これはあくまで推測ですが
「外注先がお金を支払わないとバグを修正しないと強気に出たため外注先相手に裁判していては体力が持たないと判断した」
「当初起業資金を貸し付けてくれた知人の方から返済を求められた」
などもあるかもしれません。
いずれにしても、それらの要因を総合的に考えて、会社の清算という結論を出されたのでしょう。
ただ、とても残念なのは(最終的には弁護士さんに相談しているようですが)「周りに相談できる人もいなかった」と栗原さんがおっしゃっていることです。
ベンチャー経営者にとって、法律的な知識は会社と自分の身を守る武器です。

トラブルに巻き込まれた場合、もちろん最終的には弁護士などの専門家に助力をして貰うことになりますが、まずは経営者自身が最低限の武器を身につけておくことはとても重要だと思います。

栗原さんはインタビューアーからの「最後に『これから起業する人』にメッセージなどお願いします。」に、こう答えています。

表現は難しいですが「よい経験が積めた」とは思っていまして。「若いうちから、起業なんて辞めたほうが良い」とは、今も思わないです。むしろ、どんどんやるべきかなと。
ただ「儲かるから」という理由だけで、ゲーム起業はしないでほしい。悲しいことになるので。私の経験が、これから起業する人や、読んでくれている皆さんの、参考となれば嬉しく思います。

若いうちにこのような失敗経験を積んだ栗原さんが今後、どのような再チャレンジをするのか、楽しみです。

■ まとめ

■ システムの請負契約でユーザーが補修や損害賠償を請求できるバグは「バグが、システムの機能に軽微とは言えない支障を生じさせ、遅滞なく補修することができない場合」や「バグの数が著しく多く、しかも順次発現してシステムの稼働に支障が生じる場合」に限られる。
■ 会社は経営者の心が折れたときに潰れる。


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